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大阪地方裁判所 昭和41年(行ウ)49号 判決

大阪市天王寺区東高津北之町一一八番地

原告

ピースタクシー株式会社

右代表者代表取締役

花田清一

右訴訟代理人弁護士

児玉憲夫

佐々木静子

大阪市天王寺区堂ケ芝町一九四番地

被告

天王寺税務署長

岡部俊雄

右指定代理人検事

上野至

右指定代理人法務事務官

葛本幸男

岩木昇

右指定代理人大蔵事務官

繁田俊雄

多田稔

丸山巌

右当事者間の法人税等課税処分取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立て)

一、原告

(一)  被告が原告の昭和三八事業年度分以降の法人税について、昭和四一年一一月一六日付でした青色申告承認の取消処分はこれを取消す。

(二)  被告が、原告の昭和三八事業年度分の法人税について、同日付でした所得金額を一、三二〇万九、七〇一円とする更正処分はこれを取消す。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決、

二、被告

主文同旨の判決。

(当事者双方の主張)

第一、原告の請求原因

一、原告は肩書地において本店ならびに営業所をもつてタクシー営業をなす株式会社であつたが、昭和三八年一〇月一八日訴外大阪軽タク株式会社(以下「訴外会社」という。)にその営業権を売渡してタクシー営業を廃止したものである。

二、原告は、昭和三八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(昭和三八事業年度、以下「係争年度」という。)の法人税について、昭和三九年二月二九日、被告に対し青色申告により所得金額を零円として確定申告したところ、被告は、昭和四〇年四月二七日、係争年度分以降の青色申告承認の取消処分をなすとともに、係争年度分の所得金額を一、三四四万八、二六一円、法人税額五〇一万〇、三一〇円とする更正処分をなし、そのころ原告に通知した。

三、そこで、原告は、昭和四〇年五月二九日被告に対し異議申立てをしたところ、右は、同年八月三〇日国税通則法(昭和四五年法律第八号による改正前のもの)八〇条一項一号により審査請求があつたものとみなされ、訴外大阪国税局長は、昭和四一年二月一八日審査請求を棄却する旨の裁決をなし、翌一九日ごろ原告に通知した。

四、しかるところ、被告は、同年一一月一六日前記青色申告承認の取消処分を取消す処分をなし、あわせて所得金額を零円とする再更正処分をなしたうえ、あらためて係争年度分以降の青色申告承認の取消処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をなすとともに係争年度分の所得金額一、三二〇万九、七〇一円、法人税額四九一万九、六八〇円とする再々更正処分(以下「本件更正処分」という。)をなし、そのころ原告に通知した。

五、しかしながら、原告は、本件青色申告承認取消処分および本件更正処分を受ける事由は何ら存しないから、本件各処分は違法である。

第二、被告の答弁および主張

一、請求原因一ないし四の事実はすべて認める。同五の主張は争う。

二、本件青色申告承認取消処分について

原告は、昭和三九年二月二九日、被告に対し、係争年度分の所得金額および法人税額を零円とする確定申告書を提出したのであるが、被告の調査により、原告が取引金額の一部を隠ぺいして決算を行なつていることが判明した。すなわち原告は、昭和三八年一〇月一八日、その一般乗用旅客自動車運送事業を訴外会社に金二、四五〇万円で譲渡し、その代金を次のとおり受領した。

〈省略〉

しかるに、原告は、右事業譲渡代金の一部を隠ぺいするため、訴外会社に依頼して譲渡代金を一、二二五万円とする契約書を作成し、二、四五〇万円の代金のうち一、二五〇万円のみを益金に計上して決算を行ない、その余の一、二〇〇万円についてはこれを益金から除外し、原告の代表者花田清一がこれを取得したのである。

右の事実は、法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正後のもの、以下「新法人税法」という。)一二七条一項三号に規定する「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいして記載した」ことに該当するので、被告は昭和四一年一一月一六日付で、係争年度にさかのぼつて本件青色申告承認取消処分をなしたものであり、右処分には何ら違法はない。

三、本件更正処分について

被告の調査によれば、原告の係争年度分の所得金額は、次のとおり一、三二〇万九、七〇一円(左記1、2の合計額)であることが判明した。

1、事業譲渡代金の除外収入 一、二〇〇万円

この内容は、二に記載したとおりである。

2、当期利益金 一二〇万九、七〇一円

これは、原告が係争年度分の決算書に計上した当期利益金の額である。

なお、原告は右の当期利益金から、昭和三七事業年度(昭和三七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度)より繰り越された欠損金のうち、一二〇万九、七〇一円を損金に算入してその所得金額を零円とする確定申告をしたものであるが、前記のとおり、被告は係争年度にさかのぼつて本件青色申告承認取消処分をなしたものであるから、本件青色申告書は新法人税一二七条一項柱書後段により青色申告書以外の申告書とみなされ、したがつて原告が係争年度の損金として申告した繰越欠損金一二〇万九、七〇一円は、旧法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの)九条五項により係争年度分の損金に算入することはできないものである。

よつて被告は昭和四一年一一月一六日付で所得金額を一、三二〇万九、七〇一円とする本件更正処分をなしたものであり、右処分に何ら違法はない。

第三、被告の主張に対する原告の答弁および反論

一、本件青色申告承認取消処分について

原告が訴外会社より約束手形四通金一、二二五万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。

譲渡代金は契約書(甲第六号証)のとおり一、二二五万円であつてそれは以下に述べる事実からも明らかなことである。

すなわち、本件譲渡は、通常行なわれている営業権(免許権)の譲渡と異なり、乗務員(人的設備)および車輛その他(物的設備)を譲渡しない、単なる一般乗用旅客自動車運送事業の営業権(免許権)という抽象的権利の譲渡にすぎなかつた。これを陸運局との関係においてみれば、原告が陸運局に免許を返上し、陸運局が新たに訴外会社に免許を付与することにほかならない。したがつて陸運局に対する説得と働きかけが功を奏しない場合には、訴外会社に免許が付与されないこととなり、その意味で本件譲渡には冒険を伴うものであつた。このような特殊事情のために、譲渡価額は訴外会社の言い値でかつ通常の取引価格より低額となつたのである、また通常の取引事例のような手付金や現金授受はなされず、約束手形によつて代金決済がされたわけである。

さらに、原告には昭和三七事業年度の繰越欠損金一、三一九万余円が存し、その内一、二〇〇万円を損金に算入することができたのであるから敢えて譲受代金の一部一、二〇〇万円を隠ぺいする必要も全くなかつたのである。

以上のとおり、原告は譲渡代金の一部を隠ぺいして、帳簿書類を記帳したものではなく、被告主張の青色申告承認の取消事由は存しないから、被告のなした本件青色申告承認取消処分は違法であつて取消されるべきである。

三、本件更正処分について

1、事業譲渡代金の除外収入は、二に述べた理由により否認する。

2、当期利益金が一二〇万九、七〇一円であることは認める。

しかし、昭和三七年事業年度の繰越欠損金一二〇万九、七〇一円は、前同様の理由によつて本件青色申告承認取消処分が違法であり、取消しを免れない以上、損金に算入できるものである。

したがつて、原告の係争年度分の所得金額は零円となるから、所得金額を一、三二〇万九、七〇一円としてなした被告の本件更正処分は違法であつて取消されるべきである。

(証拠)

一、原告

甲第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四ないし第六号証を提出し、証人藤原昇の証言および原告代表者花田清一の尋問の結果を援用し、乙第一号証の一ないし七、第二、第九、第一〇号証の各一の成立を認め、第二号証の二、第三、第四号証の各一ないし三、第五ないし第八号証、第九号証の二、三、第一〇号証の二ないし五の成立は不知、第九号証の四、第一〇号証の六は、いずれも官公署作成部分の成立を認め、その余の成立は不知と述べた。

二、被告

乙第一号証の一ないし七、第二号証の一、二、第三、第四号証の各一ないし三、第五ないし第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし六を提出し、証人東久太郎、同木脇巖、同繁田俊雄の各証言を援用し、甲号各証の成立はすべて認めると述べた。

理由

一、請求原因一ないし四の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、まず本件青色申告承認取消処分の適否について判断する。

原告が昭和三八年一〇月一八日その一般乗用旅客自動車運送事業の営業権を訴外会社に譲渡したこと、原告は同日訴外会社から約束手形により一、二二五万円を受領したことはいずれも当事者間に争いがないので、本訴の争点である譲渡代金について検討するに、成立に争いのない乙第九、第一〇号証の各一、証人東久太郎の証言によつていずれも真正に成立したものと認められる乙第二号証の二、第三、第四号証の各三、第五、第六号証、証人東久太郎および同木脇巌の各証言によつて真正に成立したものと認められる乙第七号証、証人繁田俊雄の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第九号証の二、三第一〇号証の二ないし五、証人藤原昇、同東久太郎、同木脇巌の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和三八年一〇月一八日、大阪市南区鍛治屋町四五番地の料理店「吉富」において、原告会社の代表取締役花田清一と訴外会社の専務取締役東久太郎との間に譲渡代金(三五台分)を二、四五〇万円とすることで最終的な合意をみたこと、代金については、花田清一が東久太郎から同月九日(同日に譲渡代金の点をのぞき原告と訴外会社間に譲渡契約内容につき一応の合意に達したことが前記各証拠を総合して推認される。)現金で三〇〇万円、同月一八日「吉富」において、約束手形で一、二二五万円(当事者間に争いがない)及び現金で九二五万円の各支払を受けて計二、四五〇万円全額を受領したことが認められ、右認定に反する証人藤原昇の証言及び原告代表者花田清一の尋問の結果は前掲各証拠に照らしいずれもにわかに信用できない。尤も後記甲第六号証及び乙第一号証の一乃至七によれば原告及び訴外会社間に本件譲渡代金を一、二二五万円とする契約書が取り交わされているほか、原告会社の帳簿処理等においても同旨の取扱いがなされていることが認められるが、これは後記のとおり譲渡代金を一、二二五万円と仮装したものにすぎないから右認定を覆えすに足りない。

そして成立に争いのない甲第六号証、乙第一号証の一ないし七、前掲乙第二号証の二および証人東久太郎の証言(ただし、後記措信しない部分をのぞく)によれば、花田清一は同月一八日「吉富」において、譲渡代金二、四五〇万円の一部を隠ぺいするため東久太郎に依頼し、譲渡代金を半額の一、二二五万円とする契約書を作成したほか、一、二五〇万円のみを益金に計上した損益計算書等決算書類を作成し、その余の一、二〇〇万円は益金から除外していることが認められ、右認定に反する証人東久太郎の証言の一部および原告代表者花田清一の尋問の結果はにわかに措信できない。

以上の事実によれば原告は新法人税法一二七条一項三号にいう「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいして記載した」ことに該当するから、これを理由として被告のなした本件青色申告承認取消処分は適法であり、本件青色申告承認取消処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。

三、つぎに本件更正処分の適否について判断する。

原告が係争年度分の決算書に計上した当期利益金の額が一二〇万九、七〇一円であることは当事者間に争いがなく、しかして、これは本件譲渡代金が一、二五〇万円であることを前提とするものであるところ、係争年度において原告にはこれ以外に譲渡代金より除外された収益金一、二〇〇万があることは二においてすでに認定したところである。ところで原告は右益金から、昭和三七事業年度(昭和三七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度)より繰り越された欠損金のうち一二〇万九、七〇一円が損金として控除されるべき旨主張するところ二において認定したように、本件青色申告承認取消処分は適法であるから、本件青色申告書は新法人税法一二七条一項により青色申告書以外の申告書とみなされ、したがつて右繰越欠損金一二〇万九、七〇一円は、旧法人税法九条五項により係争年度分の損金に算入することはできないものというべきである。しかしてこれ以外に益金から控除されるべき損金があることについて双方ともに何らの主張立証もない。

そうだとすれば、原告の係争年度分の所得金額は、事業譲渡代金の除外収入一、二〇〇万円と当期利益金一二〇万九、七〇一円の合計額一、三二〇万九、七〇一円であり、これを理由として被告のなした本件更正処分は適法であるから、本件更正処分の取消しを求める原告の請求も理由がない。

四、よつて原告の本訴各請求は、いずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 日野達蔵 裁判官 松井賢徳 裁判官 仙波厚)

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